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仙台高等裁判所 昭和29年(う)187号 判決 1954年5月26日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

被告人両名の控訴趣意は、記録に編綴の被告人両名名義の控訴趣意書の記載と同じであるから、これを引用する。

控訴趣意第一点について、

しかし、憲法第二十八条は、企業者対勤労者すなわち使用者対被使用者というような関係に立つものの間において、経済上の弱者である勤労者のため団結権乃至団体行動権を保障したものに外ならない。然るに、公共職業安定所は、職業安定法第八条の規定に基き、職業紹介、職業指導、職業補導、失業保険その他同法の目的を達成するために必要な事項を行うための公共に奉仕する機関として設置されたものであつて、経済的活動を行う企業者乃至使用者として勤労者と相対立する関係に立つものではなく、もとより、その斡旋により勤労者の就労する事業が、失業対策事業であるとその他の事業であるとによつて、所論のようにその性質を、二、三に解すべき根拠はない。従つて、原判示郡山公共職業安定所長に対する被告人等の本件行動を以て憲法の保障する団体交渉権の行使であるとの所論はすでに前提において失当であるのみならず、かりに、後段説示のとおり原判決の適法に認定した被告人等の本件公務執行妨害、建造物侵入及び暴力行為等処罰に関する法律違反の所為が、憲法の保障する団体交渉をするに際し為されたものであるとしても、かかる刑罰法規に触れる行為は団体行動をする権利の範囲を逸脱するものであつて、正当行為であるということはできない。さればこれと同一見解の下に原審弁護人の主張を排斥した原判決の判断は洵に正当である。所論は独自の見解に基く主張であつて採用し難い。論旨は理由がない。

同第二点乃至第四点について、

しかし、原判決が原判示第一の各事実の証拠として挙示する各証拠(但し原審相被告人姜の司法警察員に対する昭和二十七年一月二十五日付供述調書を除く)及び原判示第二第三の各事実の証拠として挙示する各証拠(但し原審相被告人佐藤の司法警察員に対する第二回供述調書を除く)を夫々綜合すれば、右第一及び第三の各事実は優にこれを証明しうるところであつて、所論原判決援用の各証人の原審公廷における供述が、所論のように検察官の誘導に基く真実性のないものであることを窺うべき証跡はない。もつとも、前記原審相被告人姜及び同佐藤の各司法警察員に対する供述調書は、原審において刑事訴訟法第三百二十二条第一項の規定により当該相被告人のみに対する証拠として取調べられ、他の被告人に対しては証拠能力がないものであること記録上明白であるのにかかわらず、原判決が前者を被告人柳内、同荒井の関係においても、後者を被告人柳内の関係においても採証したのは違法であるが、原判決援用の爾余の証拠によるも原判示第一及び第三の各事実を認めうること前段説示のとおりであるから、右の違法は結局判決に影響を及ぼさなかつたことに帰するので、原判決破棄の理由とはならない。さらに記録を精査するも原判決には他に採証の法則違反も事実誤認を窺うべき事由も存しない。なお、記録に徴すれば、被告人等は原審において第七回公判期日後弁護士安田覚治を弁護人に選任し、同弁護人は第八回、第九回及び第十回の各公判期日に出頭して或は証拠調の請求をし、或は証人の取調に立会して自ら尋問を行い、その後弁護人を辞任したが、第十七回公判期日前再度弁護人に選任され、同公判期日に出廷して詳細な意見の陳述をする等被告人等のため充分防禦の方法を講じていることが窺われるのみならず、原審がその余の公判を被告人等に弁護人のないままで開廷したとしても、又被告人等のため国選弁護人を付しなかつたとしても、必要的弁護の事件でもなく、弁護人選任の請求もない本件においては、右の措置を目して違法であるということはできない。所論は独自の見解に基き徙らに原判決を論難するにすぎないもので採るに足らない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六より本件各控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。(昭和二九年五月二六日仙台高等裁判所第一刑事部)

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